歯科医師も人間なので、森羅万象、すべてのことはわかりません。
群盲象を評すって言葉がありますよね。
歯科界にも似たような現象があります。
ある分野に特化した先生こそ、とある治療法が嫌いなのです。
例を3つほど上げてみます。
①インプラント
50年ほど前は、インプラントも黎明期で様々な形や材料、メーカーが乱立していたようです。
失敗症例となってしまったと思しき方が大学病院に駆け込みます。
するとひどくなってしまった状態のインプラントを大学の口腔外科の先生たちが除去します。
そんな症例ばかりをみているので、大学病院の口腔外科の先生方は「インプラントなんてとんでもない。こんなひどいものを儲けのためにやるなんて!」
という感想を多く持っているようでした。
いまだにインプラントが好きではない歯科医師の先生方がいるのはこういった経験をお持ちなのではないでしょうか。
しかし、インプラントは患者さんのQOL(クオリティーオブライフ)を損ねないために必須の治療法となっています。
初期のインプラントで、失敗が多かったらしい?ブレード型のインプラントや、サファイアのインプラントでさえも問題なく使用できている例はあるようです。
インプラントの大変な症例ばかりを見続けた結果、インプラントが嫌いになった先生方が、「インプラントなんてとんでもない」と否定したからといって、インプラントで効率よくQOLを上げて楽しく過ごしている人がたくさんいることもまた事実なのです。
そして、時代の波に押されるようにして、大学病院にもインプラント科が設立されていきました。
今ではインプラント治療が選択肢に入っていない歯科医院のほうが珍しいですよね。
今のところ、欠損歯のフォローには入れ歯よりもブリッジよりも、有効なのは事実。
この事実は無視できません。
②マウスピース矯正
最近よく聞きませんか?マウスピース矯正。
ワイヤー矯正ほど痛くもなく、わりとスムーズに歯が並びます。
専門医でなくても、最初の治療計画さえしっかりできていれば一般の歯科医でも十分治療可能だからです。当院もマウスピース矯正、やっていますよ。
それゆえマウスピース矯正はかなり症例を選びます。
AIが出してきた歯の移動シミュレーションはそのまま信じてはいけなくて、最初にかなり修正が必要な場合もあります。
だいぶ精度が上がってきてはいるのですが、中にはまだまだワイヤーでないと難しい症例もあります。
それを「マウスピースでイケる!」とマウスピース矯正で治そうとしてしまうとトラブルが起きます。
どんなトラブルか。
3年以上やってるけど矯正が終わらないとか、歯と歯の隙間が埋まらないとか、かみ合わせがおかしくなったとか、歯が揺れてくるとか。
こういったトラブルにより、もともとワイヤー矯正を行っている矯正の専門の先生なんかはとても嫌う傾向があるみたいです。
まあ、この辺のトラブルはワイヤー矯正でもしばしばあるトラブルなんですけどね。
失敗症例となってしまった方は矯正の専門医の先生に相談しに行くでしょう。
すると矯正の専門の先生方は
「マウスピース矯正なんてとんでもない!」
と言う認識になります。
「後始末するのはいつもオレタチだ!」くらい思っちゃうかもしれません。
しかし考えてもみてください。
マウスピース矯正がこれだけちまたで流行っている理由を。
ワイヤー矯正はかなり歯が痛いですし、虫歯のリスクも高くなります。歯磨きもめっちゃ時間かかるし。
必要によっては抜歯をする必要もあります。
マウスピース矯正のセミナーで聞いた話ですが、
アメリカではもちろんワイヤー矯正もありますが、もはや半分以上はマウスピース矯正だと言うのです。
食事の時だけマウスピースを外せば良いのだから虫歯のリスクも特別上がるわけではありませんし、ワイヤー矯正ほど歯が格別に痛いわけではありません。
池村は過去に小学生の時と大学生の時ワイヤー矯正を体験しています。
調整をした日は痛くてうどんさえもかめません。
そこまでして歯を並べても、歯並びが悪くなる癖を除去しないと、時間が経過すると下の前歯がずれてきたりします。
アメリカ人は人生で平均2.7回矯正するらしいんですよ。
で、最初はワイヤー矯正だったけど、痛いし歯磨き面倒だしで、リペアの矯正治療はほぼほぼマウスピース矯正で行うそうです。
池村も2回ワイヤー矯正をやりましたが、例にもれず下の前歯がガタガタになってきていたので、マウスピース矯正を自分で試してみましたよ。
ものすごく早く終りましたし痛みもさほど感じませんでしたし歯ブラシもマウスピースを外せばいつも通りなので全くストレスがありませんでした。
③ドックベストセメント治療
さらに別の例を出すとドックベストセメントがあります。
ドックベストセメントは、池村もよく使います。
他の歯医者さんで「これはもう神経を取らなければならない」と診断された歯であっても意外と神経が残るので、多くの方に喜ばれています。
しかし、例えば根管治療の専門の先生は
「ドックベスト!?あんなものはとんでもない!」と全否定したりします。
もうこのパターン、わかりますね?
根管治療の専門の先生の所には、失敗症例つまり歯の神経が死んでしまった方が駆け込むのです。
すると根管治療の専門の先生はドックベストセメントの失敗症例しか見ていないので
「あんなものはとんでもない」
となるのです。
うまくいった患者さんは専門の先生のところに駆け込みません。
なので、うまくいった症例を見る機会がないのです。
自分自身が体験した、物事を一部しか見ていなかった例
数年前の話になります。
池村の姪っ子(成人済み)から相談されました。
矯正をしたいが、拡大床を使う治療計画が安いのだと。
拡大床とは、小児の矯正でよく使う顎の骨を大きくするものです。
池村の常識では、成人に拡大床は使用しません。
学生の頃に矯正の先生に質問したことがあります。
「なぜ大人には拡大床を使用しないのでしょうか?」
矯正の先生は教えてくれました。
「大人に顎の骨を拡大するための力をかけると、顎骨は広がらず歯槽骨から歯の根っこが出てしまうことがある」
ゆえに成人には拡大床を使用するものではないと思っていました。
そして成人している姪っ子にそんな治療計画を勧める矯正歯科がある!恐ろしい!とFacebookに書き込みました。
すると1人の先生が成人用の拡大床があると教えてくれたのです。
それなりに治療方法が確立されている治療法のようでした。
このような実体験をもって、全てを網羅することはできないと思い知りました。
つまり、「群盲評像」歯科バージョン
色々な先生が色々なことを言うので、患者さんたちが惑うのもわかります。
誰の言うことを聞いたらいいのか分からなくなることもわかりますよ。
だからこそ医療に対するリテラシーが大切なのです。
でも難しいですよね。
ネット情報を鵜呑みにするのではなくまずそれを発言している先生がどの分野の専門家なのか.どの分野が薄いのか。それも加味しながら情報の取捨選択をしていくとよろしいかと思います。
究極はその先生をあなたが信じられるかどうか。
その一言に尽きると思います。
医科と比べて歯科は、患者さんと医療従事者サイドの距離が近いので、医療技術うんぬんよりも相性、あなたがその先生を好きかどうか・その先生はあなたを好きかどうか、こういったものにもどうやらかなり左右されるような気がしています。
お互い意思の疎通が取れて愛し愛される関係であれば治療するもしないも後悔が少ないのではないでしょうか。
どんな治療だって、どんな名医だって、成功率100%ということはありません。
難易度の高い治療であればあるほど、うまくいかないケースだってあるでしょう。
歯科医師だって人間です。
歯科治療だけに限ったことであったとしても、すべてを知りうることは難しいことです。
だからこそ、そもそも「治療」が必要ではない状態を維持していくことが大切だと思っています。
自分が運悪く「失敗症例」になってしまう機会をなくせますよ。
インプラントや矯正、ドックベストに限らず、特異な治療をしている先生方は、大なり小なり訴訟案件を抱えているようです。
医科もそうですよね。
100%なんてありえない。
運悪く「失敗症例」になってしまった方が医師や病院を訴える。
そんな流れがあったからこそ、事案が発生しやすい産婦人科や小児科が激減したという話が20年以上前からあったはずです。
大事なこと・最も伝えたいことなので何度でも言いますが、
そもそも「治療」が必要でない状態を維持し続けることが、最も費用対効果が高いです。
悪くなってきた原因がわからなくて、ただ歯を「治療」と称して削られてきた過去はお気の毒ではあるのです。
しかし、歯科ドックを受けて、今まで悪くなってきた原因がいくつか特定できたのなら、今後はこれ以上悪くならないように対策が取れますよ。
ご興味ある方は、まずはオンラインにて当院のカウンセリングを受けてみて下さいね。